選択制確定拠出年金(選択制DC)とは?中小企業が「給与を上げずに」手取りと福利厚生を両立する仕組み

「従業員の待遇を良くしてあげたい。でも、給与を上げても社会保険料や税金の負担が増えて、手取りが思うように伸びない」——中小企業の経営者の方から、こうしたお悩みをよく伺います。そのひとつの打ち手として近年注目されているのが、選択制確定拠出年金(選択制DC)です。

選択制DCとは、従業員一人ひとりが「毎月の給与の一部を、今そのまま受け取るか/将来のために確定拠出年金として積み立てるか」を自分で選べる、企業型確定拠出年金の一種です。会社が新たに大きな掛金を負担しなくても、退職金制度や福利厚生の仕組みを整えられる点が、中小企業に選ばれている理由です。本記事では、総合保険代理店として企業型DC・iDeCoも取り扱う当社が、仕組みからメリット・注意点、導入の進め方までを分かりやすく整理します。

目次

この記事でわかること

  • 選択制DCの基本的な仕組み
  • なぜ「給与を上げずに」手取りと福利厚生を両立できるのか
  • 会社・従業員それぞれのメリット
  • 導入前に必ず押さえたい注意点(デメリット)
  • 導入の進め方と相談先

選択制DC(選択制確定拠出年金)とは?

選択制DCは、企業型確定拠出年金(企業型DC)の導入方法のひとつです。会社が「生涯設計手当」などの名目で給与の内枠を用意し、その一部を毎月いくら確定拠出年金に回すかを、従業員自身が選択します。積み立てを選べば掛金として拠出され、選ばなければ従来どおり給与として受け取ります。

ポイントは、会社が給与とは別に「追加の掛金」を負担する必要が基本的にない点です。既存の給与原資の一部を組み替える形で始められるため、体力に余裕のない中小企業でも導入のハードルが下がります。積み立てた掛金は、従業員が定期預金・保険・投資信託などの運用商品から選んで、原則60歳以降に受け取ります。

なぜ「給与を上げずに」手取りと福利厚生を両立できるのか

結論からお伝えすると、確定拠出年金に回した掛金は、給与(標準報酬月額)としてカウントされず、社会保険料や所得税・住民税の計算対象から外れるためです。同じ「1万円」を給与として受け取る場合と、掛金として積み立てる場合を比べると、後者は社会保険料や税の負担が軽くなり、結果として手取りベースでの効率が高まりやすくなります。

たとえば給与を月1万円引き上げると、従業員の社会保険料・税だけでなく、会社が負担する社会保険料(法定福利費)も増えます。一方、選択制DCで同額を掛金に回した場合は、その分が保険料算定の基礎から外れるため、従業員・会社の双方で負担が軽くなる可能性があります。「昇給」と「掛金」は似て非なるもの、という点が制度の肝です。

ただし、負担が下がることには裏側もあります。詳しくは後半の「注意点」で必ずご確認ください。

会社側のメリット

追加負担を抑えて退職金・福利厚生を整えられる

選択制DCは、既存給与の一部を組み替える設計のため、会社が新たな掛金原資を大きく用意しなくても始められます。「退職金制度がない」「福利厚生を強化したいが原資が悩ましい」という中小企業にとって、現実的な選択肢になり得ます。

法定福利費(会社負担の社会保険料)を抑えられる場合がある

従業員が掛金を選択した分だけ標準報酬月額が下がるため、会社が負担する社会保険料も軽くなる場合があります。人件費の伸びを抑えながら待遇改善のメッセージを打ち出せる点は、採用・定着の観点でも意味があります。

人材の採用・定着に活かせる

「確定拠出年金あり」は求人票でも訴求材料になります。老後資産づくりを会社としてサポートする姿勢は、従業員満足度や定着率にプラスに働きやすい要素です。

従業員側のメリット

従業員にとっての利点は、大きく3つに整理できます。

  • 税・社会保険料の負担が軽くなりやすい:掛金が給与算定の基礎から外れるため、同額でも手取り効率が高まる場合があります。
  • 運用益が非課税:確定拠出年金の運用で得た利益には、通常かかる約20%の税金がかかりません。
  • 受け取り時にも税優遇:一時金なら退職所得控除、年金なら公的年金等控除の対象になります。

加えて、積み立てるか否か・毎月いくら回すかを従業員が自分で決められるため、ライフプランに合わせて無理なく続けられるのも特徴です。

見落としがちな注意点(デメリット)

メリットの裏返しとして、標準報酬月額が下がることで、将来受け取る給付が減る可能性があります。従業員に説明しないまま導入すると、後々のトラブルにつながりかねません。導入前に、次の点を必ず共有しましょう。

  • 将来の厚生年金(報酬比例部分)が減る可能性があります。
  • 傷病手当金・出産手当金・育児/介護休業給付・失業給付など、標準報酬に連動する給付が下がる場合があります。
  • 掛金は原則60歳まで引き出せません。当面の生活資金は別に確保する前提が必要です。
  • 運用は自己責任で、元本割れのリスクがあります。口座管理手数料などのコストもかかります。

影響の大きさは、掛金の額・年齢・働き方によって一人ひとり異なります。「誰にとってもお得」ではないため、制度を入れる際は、従業員が自分のケースで判断できるよう、丁寧な説明機会(投資教育)をセットで用意することが大切です。

選択制DC導入の進め方

STEP
目的と対象を整理する

退職金の準備なのか、福利厚生の強化なのか。対象となる従業員の範囲や、想定する掛金の水準を整理します。

STEP
制度設計・規程の準備

給与規程の見直しや掛金上限の設定など、制度の枠組みを設計します。運営管理機関(金融機関)の選定もこの段階です。

STEP
従業員への説明(投資教育)

メリットだけでなく、給付が減る可能性などの注意点も含めて説明します。納得して選択できる環境づくりが、制度定着のカギです。

STEP
運用開始・継続サポート

制度をスタートした後も、加入状況の確認や継続的な情報提供を行い、従業員が安心して続けられるよう支えます。

よくあるご質問(Q&A)

従業員が少ない小さな会社でも導入できますか?

はい。選択制DCは会社の追加掛金を前提としない設計のため、少人数の会社でも導入しやすい制度です。ただし制度運営には手数料や事務が伴うため、規模や目的に合うかを事前に確認することをおすすめします。

給与が下がることで、社会保険の給付が減るのが心配です。

掛金に回した分は標準報酬月額から外れるため、将来の厚生年金や一部の給付が減る可能性があります。影響の程度は掛金額や年齢によって異なるため、加入前にご自身のケースで確認することが大切です。

iDeCoや通常の企業型DCと何が違うのですか?

選択制DCは企業型DCの一種で、掛金を出すかどうかを従業員が選べる点が特徴です。会社が掛金を上乗せする一般的な企業型DCや、個人で加入するiDeCoとは原資の考え方が異なります。自社に合う制度は目的次第のため、比較のうえで検討されると安心です。

まとめ|「昇給」以外の待遇改善という選択肢

選択制DCは、会社の追加負担を抑えながら、退職金・福利厚生を整え、従業員の手取り効率も高めやすい制度です。一方で、標準報酬月額が下がることで将来の給付が減る可能性など、丁寧な説明が欠かせない注意点もあります。メリットと注意点の両方を理解したうえで、自社の規模や目的に合うかを見極めることが大切です。

「うちの会社に合うのか判断したい」「制度の設計や従業員への説明までサポートしてほしい」——そうお考えでしたら、企業型DC・iDeCoも取り扱う当社にお気軽にご相談ください。御社の状況をお伺いしたうえで、無理のない進め方を一緒に整理します。

※本記事は制度の一般的な解説であり、個別の税務・社会保険の取り扱いや加入判断を保証するものではありません。実際のご検討にあたっては、最新の制度内容をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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